時間という観点から本づくりについて考えてみる。

今日の書き手:佐藤 康生

 

今年1月、Jリーグの第5代チェアマンに就任にされた村井満氏。

 

村井さんとは、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)の社長だった時代に、しばらく一緒に仕事をさせてもらったことがあるのですが、ある打ち合わせの帰りに村井さんの執務スペースのそばを通ると、デスクの上に量子論の本が置いてあったのが今でも強く印象に残っています。話題となった今回の人事も、目に見えないなにかしらの“ゆらぎ”が働いたのかもしれませんね。

 

さて、その村井さんの就任インタビューが、今週の日経ビジネスオンラインに掲載されています。

 

Jリーグのライバルは欧州サッカーではない 村井満・新チェアマンに聞く(1)

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140303/260488/?P=1

 

記事の中で、興味深い発言がありました。

 

発足以降、サッカーを取り巻く環境が変わり、経営の難易度も増しているJリーグの経営。「Jリーグの競合は欧州サッカーでしょうか?」という記者の質問に対して、村井さんはこんなふうに答えています。

 

村井:いや、欧州サッカーを直接的なコンペティターだとは思っていません。例えば映画やディズニーランド、ゲームなど、いろいろなエンターテインメントコンテンツに対して、競争力を磨いていかなければいけない。2000円のチケットを買って90分のJリーグの試合を見に行くか、1800円で2時間の映画を見るか、そことの戦いだと思います。

 

村井さんがおっしゃっているのは、「時間の奪い合い」ということなのだろうと思います。お金をはじめ様々な領域で二極化が進んでいますが、時間はいまだに(おそらくはこれからも)すべての人に平等です。ビル・ゲイツや孫さんも、KOSKのおばちゃんも、死にゆく間際の人も、天から与えられているのは等しく1日24時間、1年365日。

 

限定された時間の中で、選択肢だけがどんどん増え、時間の争奪戦がますます激しくなっているのが今です。

 

もちろんぼくら社がいる出版の世界が例外などということはあり得ないわけで、むしろ奪われる側の代表、防戦一方といったところではないでしょうか。本を読むより役に立つことも楽しいことも、世の中には溢れています。

 

ネットを読めばわかること、どこかで見聞きした感動の二番煎じに、自分の貴重な時間とお金をカンタンに使うわけがない。

 

リアルとネットを含めたあらゆるコンテンツと相対比較される中で、本が提供できる価値とはなんなのかをもっともっと意識して、追求していないといけないんだろうなと思います。ものすごく気持ちのいい、触るだけでイッてしまいそうな本、なんてのもあってもいいかもしれません。

 

もうひとつ時間について思うのが、その使われ方の変化です。自由に使える時間がどんどん細切れになってきているような気がします。例えば多忙なビジネスマンなら、使える時間は、通勤に30分、お昼休みに20分、眠る前に30分という感じなのではないでしょうか。

 

そういえば、以前『R25』を創刊した編集長にインタビューしたとき、電車が走る駅間の平均時間は約4分で、それに合わせて読み切れるように記事を書いているということを聞いて「なるほどねぇ」と思ったことがありました。

 

最近のビジネス本の項目立てがわりと細かく分かれていたり、好きなときに耳から聞けるポッドキャストが多くのファンを得ているのもこのことと無関係ではないと思っています。果たして現在の本という形態に相応しいものがどれくらいあるのか、ちょっと考えてしまいますね。

 

カップ麺を待つ間に読むフタに付いている本とかあったら、日本人の知性の底上げができそうですし、ハウツー・ノウハウ本などはトイレットペーパーに印刷してウンコとともに流してあげた方がいろんな意味で役に立つような気がしますね。

 

こんなふうに時間について考えていくと、出版ビジネスの難しさを改めて実感します。とはいえ、その難しさが面白さでもあるわけですが、変わらず問われていくのは中身に本物が入っているかどうか。

 

いまの出版業界は、社員を食べさすために数打ちゃ当たるビジネスモデルになっていますが、ぼくら社の場合はそれぞれ自立した仕事を持っているのでそんな必要はありません。まあ、儲からないとお金は入ってこないんですけど(笑)。

 

それでもいっそ1年に1冊しかつくらない出版社、なんていうビジネスモデルに挑戦してもよいかもなんて思ったりします。

 

Written by :佐藤 康生

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発動せよ! 変人(かぶきもの)感性

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