方向音痴諸君!ひとつ、お尋ねしたいことがあるのですが。
今日の書き手:古越 幸太
世の中には2種類の人間がいるそうですね。
地図があればどこにでもたどりつける人。
地図があれどどこにもたどりつけない人。
生まれてこの方30年、方向音痴という名の不治の病に苦しんでおります。
新宿を歩けば常に迷宮ミレニアム。
「残念ッ!そっちは中央東口だっっ!!」
高笑いを浮かべるマモノの声に途方にくれれば、渋谷の交差点で若者がスノーボードにふける間に、僕は新宿三丁目でひとりストリートビューイング360。
されどスティーブ・ジョブズがiPhoneを生み出して以降、同志諸君の世を生きる苦しみのいくばくかは楽になったであろうと推察されます。
彼の発明の最たる功績は、地図+GPSを片手で持てるサイズにおさめ、それを路上で眺めながら歩いてもなんら不自然でない姿にしたことであり、同じ人生の苦渋をなめたあなたであればザッツライトと右の拳を天へと掲げるでしょう。
最初は新宿という舞台にのまれていましたが、徐々に新宿を僕のコントロール下に置けるようになってきました。
けれど、スマートフォンも決して万能ではありません。
駅地下・ビル内・電波ゼロ、このような環境に置かれれば我々はまた無力の徒と化します。
そうして改めて気づくのです。
一度その眼に映った方向音痴という名の死兆星からは逃げることなど叶わないと。ひでぶっ!
こうしてぼくらの辛苦を綴れど、目的地の住所ひとつあれば他に何もいりやしないと語るきゃつらの前に言葉は無力です。
僕はひときれのパン、ナイフ、ランプかばんにつめこんで、空に浮く島を目指せどシンジュクステイションという名の魔窟を脱出できずに物語はフィナーレを迎えるでしょう。シータをこの腕に抱きかかえることなく。
「あ、すいません。父さんの行った道はどっちですか?」
バルス!!
言葉をつづり束ねる者の使命として、そんな空間認識能力が高い火星でも生きていけるであろう人に、方向音痴という病の何たるやを記録として伝えることを諦めてはいけないのではないか。いや、いけない。
方向音痴(中程度以上)あるある
① 一度建物に入ると元の道に戻れない
道なりに左に曲がって建物に入ったあと、駅に帰ろうと建物を出てまた左手に進む。
これは同志諸君であれば熱い理解を得られるであろう。
同じ入口から元の場所に戻るのであれば、建物を右手に曲がらなければいけない。なのになぜか左手に進む。
つき進む。ひたすら進む。行けば分かるさ、いっちにーさん、だー。
② いつもの通勤電車で上りと下りを間違える
ぼく「すいません遅くなりました。ちょっと電車が…」
じょうし「おー遅延か?」
ぼく「乗る電車の方向を間違えました」
じょうし「えっ?」
ぼく「えっ?」
渋谷へ行かんと副都心線に乗れば池袋。東京へ行かんと丸ノ内線に乗れば新宿へ。
TOKYOの闇は深い。頼むぜ舛添さん。
③ GPSを信じない
Google Maps「次の角を右」
ぼく(いやー、そこは左でしょ。いうてもGPSもラスト30mはアテにならないからね)
交差点を無限ループ。ワルプルギスの夜は終わらない。
方向音痴こそ、ここぞの交差点の判断でGPSに頼らず己の経験に委ねるジャスティス。
④ 脳内3Dマッピングコラージュ
信じるは己の脳内の画像・風景。
風に揺れる雲、移ろう木々、ついぞ目を奪われる看板たち。
目的地に迷いなくたどりつける人は脳内で自在に2Dマップが描けるとはまことですか?景色や風景の断片はすぐ浮かぶのですが、道路がそして道順が浮かびません。
誰か、僕をあの人と行った美味しいパスタ屋さんに連れて行ってください。
あれ、茶色いビルを曲がって、あれですよあの銀杏並木を曲がって、なんかすごい赤い看板を通りすぎて右手らへんのあれを曲がった先のあれですよあれ。
⑤ 謎の電車アナウンス
電車に乗ると毎回次のようなアナウンスが流れますね。
「次は〜、おおてまち〜、おおてまち〜です。お出口は右側です」
あれ、毎回僕の中で疑問に思っていたんですよ。
(ゆうてもお前にとっての右と、おれにとっての右が必ずしも同じとは限らないのに、なにをもっての右やねん)
僕もただの引きこもりではなく、社交性を身につけようと日々努力している引きこもりですからね。聞いてみたんですよグループ移動@電車。コミュニケーション、大事です。
いつぞ襲われるカラオケという名のイベント対策に、小さな恋のうたと天体観測と、チェリーはきっちり抑えてありますからね。
女々しくてとか、キセキとか、大親友がパスタな俺と水面下でしたっけ?その辺は濡れたまんまのリア獣にお任せですよ。
ガタンゴトン。
ぼく「出口右側とか言われても、どっちが右とか分からないのに意味ないよね」
知人A「えっ」
知人B「えっ」
知人C「えっ」
ガタンゴトン。
ぼく「いや、だからさ。出口右側とか言われても、まず右の定義をハッキリ決めてもらわないことには、結局どっちのドアが空くのか分からないじゃんね」
知人A「えっ」
知人B「えっ」
知人C「えっ」
ぼく「え?でも世のリーマンはすごいやね。毎朝の出勤を極めると経験でどの駅でどっちの扉が開くか記憶していて、アナウンス流れたらみんなどっちかの扉に寄るもんね。日本人やばいわー都会人超やばいわーー、エブリモーニングエクストリーム出勤かーーーって」
知人A「・・・」
知人B「・・・」
知人C「・・・」
ぼく「えっ?」
JR・メトロ・東急・京急「えっ?」
方向音痴以前の一般常識という嘲笑サラウンドに沈む僕の亡骸は、LCLの赤い海から浮かび上がることはないでしょう。
志を共にする全国の方痴ボーイズアンドガールズの蜂起を求ム!
ビーアンビシャス。君らの手に、この涙滴型の石をたくす。蒼い光が照らすしるべが君らの行く先を照らさんことを。
当時の恥を思い返すと、もはや書けども書けども溢れる涙は拭えませんが聞きたいことは唯一つ。
「出口は右側アナウンス」の右は、進行方向に対する右と。画面の前の諸氏はご存知でしたでしょうか?
かしこ。
Written by :古越 幸太
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35冊を超える著書ではじめて語る「変わり者と疎まれ、本当の自分を出せずにいる」、そんな生きづらさを抱えている人に向けたメッセージ。
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君は、君がなるべきものにきっとなれる。