オムライスとウオノメと新規事業
今日の書き手:佐藤 康生(ぼくら社取締役)
私事ではありますが、いま、8000文字のコピーを書く仕事を抱えています。
原稿用紙にして20枚、小説ならちょっとした短編程度ですが、コピーとしては非常に長い部類に入ると思います。
コピーの元となるインタビューは約2時間半。文字に起こして7万5000字程度となります。
付随する資料なども併せて、この7万5000字を8000文字に凝縮していきます。
長いコピーを書くときに、いつも思い出すのは、村上春樹氏の『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』に収められている『アンダーグラウンド』を執筆した際のエピソードです。
※ちなみに『夢を見るために~』は、氏の特異な精神構造と驚くべき創作法の一端が垣間見れる本であり、氏がなぜ『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』のあの精緻な世界を書けたのかがわかります。
『アンダーグラウンド』は、地下鉄サリン事件の被害者の方へのインタビューで構成されているノンフィクションですが、ここで氏は被害者の方から実際に聞いた話を、文章に落としていくプロセスについて書いています。
いま手元に本がないので正確ではないかもしれませんが、氏はこの作品を生み出す際、被害者の方々の話を一旦解体して、要素ごとに整理し、パズルを組み立てるように再構築していったということです。
これを読んだとき、まさにわが意を得たりの思いでした。なぜならぼくも長いコピーを書く際に、まったく同じ作業をしていたからです。
取材テープを文字に起こしていくとわかりますが、ほとんどの人は、理路整然と話すことができません。
ひとつの話題が、あっちへ飛び、こっちへ飛び、また戻ってくる。話が長くなればなるほど、様々な内容が入り乱れてきます。
たとえば、経営者にインタビューした場合、
a)創業時の苦労話からはじまり、
なぜか
b)オムライスの話になり、
かと思えば、
c)「じつは、親指の先にウオノメがありまして」
と靴下を脱いだかと思えば、
d)新規事業の話になり、
e)「やっぱりおふくろの味は最高ですわ。あっはっは」
これで終わりかと思いきや、
またもや
f)創業の話に戻るといった感じです。
これを仮に、
a)→b)→c)→d)→e)→f)の順番に書いたら、
もうごちゃごちゃで、読む人は混乱してしまうばかりでしょう。
そこで、以下のように整えてあげる必要があります。
本筋 a)創業→f)創業→d)新規事業
エピソード b)オムライス e)おふくろ
ゴミ箱 c)ウオノメ
村上春樹氏が言う解体と再構築とは、おそらくこのような作業を意味しているように思います。
不思議なのはこの作業をしていると、全体の流れの中で、ところどころに空白地帯が見えてくることです。
それは、取材対象者がインタビューの中で言いたくても、言えなかったことであり、言っていたとしても、うまく言えなかったことであり、総じて取材対象者の本質や核心である場合がとても多いのです。
優れたライターは、その空白を見つけ、想像力で埋めることができます。
とても、自然に。
『アンダーワールド』のエピソードの中には、完成した文章を被害者の方に確認していただいた際に、本人がまったく話していない内容にも関わらず、あたかも自分が話したように感じ、「私のことがよくこんなにわかりますね」と、言われたということも書かれていたように思います。
さて、ブログの時間はここまで。そろそろ7万5000文字の解体作業に入るとします。
Written by :佐藤 康生
考えることのきっかけを作る、ぼくら社の本!
『イヤな客には売るな』『営業マンは断ることを覚えなさい』など型破りな発想でビジネスの常識をくつがえしてきた経営コンサルタントが、悩めるうなずき人間に贈る、考えて生きていくためのヒント。